今日は大腸内視鏡医を実際にされている先生たちに、お話をしたいと思います。
まず痛くない検査を、皆さん、ぜひ目指してほしいと思います。私の経験で言うと、痛い検査をしてしまうと、次の年に患者さんが来なくなってしまう、そして来ないでいるうちにがんができて悲惨なことになってしまう、ということがたくさんあります。ですからぜひ、痛くない検査をやってほしいのです。
ただここで、痛くないというのは技術だけの問題ではないんですね。雰囲気というのがすごく大切なのです。たとえば患者さんが検査室に入って来た時に顔がひきつっていたら、「はい、ちょっと肩をゆらしましょう」とか、話しかけて笑いをとったりしてリラックスさせてあげる、こういう雰囲気作りがとても大切だということです。
この辺りは内視鏡の技術ではなくて心構えとして簡単にできることですから、ぜひ意識して頂きたいと思います。
次は痛くない内視鏡の挿入技術について、ちょっとお話します。
多くの方は、挿入しよう押し込もう、という意識をどうしても持ちがちなんですが、私は実際、最近はそういう意識はもっていません。カメラを直腸、お尻のところから入れたら、あとはカメラの重みで落としていくという意識なんですね。ちょっと右にターンをかけながら落とすという感じです。
詳しいことは、『行列のできる患者に優しい“無痛”大腸内視鏡挿入法』という書籍に書いてありますので、読んでみて下さい。私と5人の仲間で書いた本で、1冊で6人の技術が学べる非常にお得な本です。
その落とす意識というのを私はすごく注意してやっています。後は、どうしてもいろいろな本とかを見ると、「ここでこういう視野が見えたらSトップだからこうする」とか「ここは脾彎曲部だからこうする」とか書いてあるので、しょうがないとは思うのですが、私は昔からそういう説明があまりよくわからないし、自分でもそういう説明はしません。
ただ大切なのは、内視鏡がぐるっと入った時には、「ゴールデンプレーン」と私は考えているのですが、つまり一枚の平面上にあると思うのです。この完成された平面にあるのであれば、最初からその平面を意識していく、ということです。内視鏡が捻れていくとデコボコですから平面というのはできなくて、一つの平面上であれば内視鏡がちょっとくらいくねくねしても大丈夫ですから、最終的にできた大腸内視鏡の平面、それが患者さんの中でどういう形になっているのかというのを意識しながらやると、軸がぶれにくくてやりやすいのではないかなと思います。
もう一つ大切なこととして、挿入時間に関してですが、私は昔も今も計っていますけれど、これは速いことを目指す必要はありません。平均をとって標準偏差がだんだん小さくなってくるのが、私は技術の安定を意味するのだと思います。
最初の頃はどうしても時間ばかり気になりますが、患者さんにとって検査というのは、前日から下剤を飲んで、当日も飲んで、検査の後もぼーっとして休んで、家に帰っても少しお腹が張ったなあ、などと一日仕事なわけです。そこであなたが1分、2分速くやったとしても、患者さんにとってはたいして変わりはありません。
ですから、そんなことよりも、雰囲気作りで痛くない検査というのを目指して下さい。あなた自身の技術が安定してくれば、時間の標準偏差は狭まってきます。
たとえば私は7年くらい前ですと、5分プラスマイナス2分だなというくらいの感触がありました。それより前、つちなか病院に勉強しに行く前は、7分プラスマイナス2分で、「もうこれで十分だろう、これ以上速くはできない」と思っていたのですが、つちなか病院に行ってみたら5分くらいでやる先生達がいて、そで修練するにつれて5分プラスマイナス2分になってきました。
今は大体、3分プラスマイナス1分半くらいではないかと思いますが、ともかく標準偏差が小さくなるというのが技術の安定であるということです。
最後にもう一つ、老婆心ながら言うと、内視鏡医はどうしても自分で奥まで到達したいと思うんですけれども、医者が患者さんの盲腸まで到達することよりも、患者さんが到達されることが大切なわけですよね。ですから、自分の技術では手に負えないと思ったら、その時はベテランの先生に代わってもらうというのが大事です。
それからできれば痛くないのがいい、そして患者さんが次回も受けたいと思う検査をやって頂けると良いな、と思います。
若い先生たちが大腸内視鏡の修練にあたって、今日の話を思い出して下されば嬉しく思います。何かお問い合わせがあれば、ブログの方でどんどん聞いて下さい。よろしくお願いいたします。